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Shaw's Home Page(本館)

はてなダイアリーから引っ越しました。

BEATLESS

傑作という評価を度々目にしてきた「BEATLESS」に手を出してみた。勢いがつくまでちょっと読みづらいなぁ…という思いもあったけど、気がつけばどっぷり。噂通りのスゴ本っぷりだった。話の印象としては、「マルドゥック・スクランブル」と「ラピュタ」のおいしい所を抽出して上手くブレンドさせた感じかなぁ?

話の軸は、人間とアンドロイド(この小説ではhIEと呼ばれる)のボーイ・ミーツ・ガール。そこに、こころを持たない超高性能AIが人間と共存できるか?というテーマが深く入り込んできて、SFとしての深みが半端ない内容になっている。

作中繰り返しでてくる「アナログハック」という概念。簡単にいうと、人間が人間でない何かに、本来持ってない意味を持っちゃうこと。現在でもこういう概念は普遍的に存在してるとも思うけど、ハックする(しかける)側もされる側も同じ人間なのに対し、BEATLESSで描かれるのは、ハックする側は超高性能AIという世界。これがとにかくパンチの効いた設定になっている。

ごく普通の主人公(男)が、ひょんな拍子に美少女hIEと出会い、なりゆきでそのオーナーになる。で、ヒロインとなるhIEは当然こころのないAIで…というのが冒頭のあらすじになるわけだけど、このAIがとにかく凄い。そもそもこの物語の世界観として、AIの性能が人間を凌駕している世界で、ヒロインhIEもまた飛び抜けた不思議な能力によってまわりに様々なアナログハックをしかけ、そのたびに主人公は振り回されるわけです。

AIによって制御されてるhIEが人間らしい振る舞いをすること自体が気に入らない人もいれば、hIEによって意図的にアナログハックなんてされようものなら世の末だ…と考える人も沢山いる。そんな中、正体不明の高性能hIEであるヒロインと、そのヒロインにいいように振り回されながらも好意を抱いていく「ちょろい」主人公。その姿に複雑な思いを重ねる友人たち。それは、人は高度に発達してしまったhIEと友好関係を築くことができるのかという問いかけにつながっていく…。

さらに事態が複雑になるのは、ヒロイン以外の4体の高性能美少女hIEの存在。それぞれの立場や目的によって、時に対立し、時に共闘し、状況によってははでにドンパチしあう。SFとして考えられるテーマとアクションが見事に両立してて、これがまたこの話をどんどん面白くしていく。美少女hIEのイメージイラストは公式サイトでも確認できるんだけども、こういうキャラたちが派手に立ちまわるのって、話を面白くするという目的だけじゃなくて、やっぱりアニメ化のことも想定してるのかな?なんてことも思った。その割にアニメ化決定という話題を目にしないんだけども。

読んでてずっと思ったのは、いつかAIの性能が本当に人間を凌駕した世界ってどうなるんだろうか?ということ。コンピュータの性能は日々進化している現実があって、計算能力の優位性だけでなく、物事を判断する能力やコミュニケーションを行う能力というものをコンピュータが身につけたとき、人間はコンピュータと良好な関係が築けるのだろうか?

例えば、つい最近話題になった将棋の電王戦。プロ棋士とコンピュータ将棋がガチで対戦して、ついにコンピュータがプロを超えたという事実を目の当たりにすることになったイベントになり、この結果に複雑な思いを描いた人も多いでしょう。見方によっては、今まで人間でなければ真価を発揮できなかったものがコンピュータで置き換わっていくという現実を見出すかもしれないし、逆に強力なパートナーとして関係を築く未来を見出すかもしれない。ただ、この例はあくまで姿形のないソフトウェアが相手で、アナログハックという概念はまだ存在しない。でも、進化のたどりついた先に、人間と同じような姿をしたアンドロイドが相手になったらどうなるだろう。

超高度化したAIによって制御されるhIEによって様々なことが自動化される。そこに、人間でなければできないことはほとんど存在しない。さらに、人間を誘導するようなアナログハックまで行われるようになったら。人間は、人間より優位な立場にいる存在とどう向きあうことになるのか。物語の冒頭で、主人公の友人の一人が「人間にできる唯一の楽しみは恋愛だけだ」というようなことを言っていて、この話を読み始めた時はそれほどこの発言に意味を感じてなかったけど、あとになって実は深くて重い意味が込められていることに気づくわけです。

物語の軸は、先に触れたように、人とhIEとのボーイ・ミーツ・ガール。こころがない、超高性能AIで美少女の姿をした「モノ」との交流の先にはいったい何が待ち受けているのか…、そしてその物語に何を感じるのか。それは人それぞれかもしれないけど、わたしゃ激しく心を動かされたし、珍しくストーリーから脱線しながらあれこれ考えちゃうような話でしたねー。

話のボリュームも大きいし、若干読みにくさも感じる本ではあるんだけど、そこで描かれているテーマや世界観は壮大で、ストーリーも抜群に面白いので、SFに苦手意識がなければ是非とも読んでみることをオススメします。