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「道化の使命」三部作読書中

最近、「道化の使命」三部作を読んでいる。これ、だいーぶ前に読んだ「ファーシーアの一族」三部作の続編なんですね。つい最近まで続編が邦訳されていたことを知らなかったのだけど、たまたま「道化の使命」シリーズの最初の話である「黄金の狩人」を手にとってみたら、これがまた面白くて。いつの間にかどっぷりとこの物語に浸かっている。

前作である「ファーシーアの一族」については、読了後に感想を書いていた。もう9年前ですか。
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で、続編にあたる「道化の使命」三部作ですね。「ファーシーアの一族」で王家に尽くすために苦難を重ね続けた結果身も心もボロボロになった主人公フィッツ。その後相棒である狼ナイトアイズとともに隠遁生活に入り、気がつけば15年過ぎたある日。すっかり屈折したおっさんになった主人公の元に、暗殺者としての師匠だったシェイドが訪れることから、再び物語は動き出す…。

前作から年月をだいぶ経過させてからの続編なので、登場キャラもみんな年を重ねているし、子供もいるし、狼であるナイトアイズに至っては老齢になっている。で、わたし自身も前作を読んでからずいぶん時間が経過しているので、もうほとんど話の内容を覚えてないよ…って思っていたのだけれど。「黄金の狩人」の最初の1巻が、前作の主要キャラとの再会であったり、経過した19年の間の回想に費やされてるので、読んでいるうちにどんな世界観だったか、どんなキャラが出てきて、どんな結末を迎えたのかがどんどん思い出されていく。だからといってたんなるダイジェストというわけじゃなくて、新しいキャラのと交流だったり、これから動き出す物語の種まきがしっかりなされていて、ついつい先が気になる導入になっている。

前作のネタバレになっちゃうので詳しいことは触れないけれど、過去のしがらみもあって二度と王都に戻る気のなかった主人公が、とある理由で再び王都に戻ることに。そこでは、王家の跡継ぎとなる王子が失踪するという事件が起こり、その解決の手助けをすることになる、というのが「黄金の狩人」の大まかなあらすじ。

前作では、<気>と<技>と呼ばれるごく限られた人間のみが使える魔法のような存在が物語の鍵になっていて、これがこのファンタジー世界の魅力になっていたのだけど、それは今作でももちろん引き継いでいる。ただ、前作は話が続くにつれ悪役のヘイトが高まりすぎて、個人的に読むのがどんどんしんどくなっていたのだけれど、続編は悪役との対決よりも、キャラクター同士の掛け合いや主人公のかかえる葛藤なんかが前面に押し出されていて、今の私には今作のほうが読んでいて面白かった。これは物語に対する個人的嗜好が、バトルよりもドラマのほうが興味深く楽しめるということをにも起因しているかもしれない。

シリーズタイトルにもなっている物語のキーマン道化や、かつての師シェイド、現状王家を取り仕切っている王妃ケトリッケンに、<気>をもつ相棒ナイトアイズといった前作から続く面々が相変わらず魅力的なこと、新キャラである王子デューティフルや占い師ジンナ、ケトリッケンの側近ローレルなどなど、新たな顔ぶれもまた個性派揃い。わけあって自分の身分を隠している主人公と新キャラたちとの微妙な距離感の描写であったり、失踪事件の裏に隠されていた、王国が抱えている闇だとか…簡単には解決にならない物語は思っていた以上に奥が深かった。そしてラストでの喪失感。いつかそうなるんだろうと読み手である自分も心の準備はしていたはずなのに、それでもやっぱり寂寥感は半端無かったな…。

黄金の狩人1 道化の使命 (創元推理文庫)

黄金の狩人1 道化の使命 (創元推理文庫)

続く「仮面の貴族」では、前作では敵対関係にあった外島人の姫様と、ディーティフル王子との間に持ち上がった婚姻話を中心に、それを快く思わない人であったり、「黄金の狩人」から続く因縁だったり、そして<気>や<技>をもつ人々が抱える問題に振り回されるフィッツの苦難が描かれる。このシリーズ、物語が進むに連れて主人公の行動範囲がどんどん局地的になっていくんだけど、それに合わせて人間ドラマが濃くなっていくんだよね。アクション描写は控えめに、ずっと人間ドラマが続くことが面白いと感じるかどうかは個人差がでそうだけど、わたしは全然飽きることなく、続きが気になって一気に最後まで読んでしまった。

仮面の貴族1 道化の使命 (創元推理文庫)

仮面の貴族1 道化の使命 (創元推理文庫)

この三部作の最後を飾る「白の予言者」はこれから着手する予定。4分冊と相応のボリュームがありそうなので、手を出すのは図書館の魔女の3巻と4巻を読んだ後かなぁ。いろいろと苦難の連続だったフィッツの物語がどういうふうに締めくくられるのか、最後まで見届けようとは思っている。

白の予言者1 道化の使命 (創元推理文庫)

白の予言者1 道化の使命 (創元推理文庫)

前三部作を未読である人には勧めづらいけれど、動物と心を通わせるような物語がツボな人は楽しんで読めるファンタジー小説だと思うので、少しでも惹かれる要素がありそうであれば是非にでも。

しかし、前三部作を読んだ時、まさかこの物語の続編が翻訳されるとは思ってなかった気がするなぁ…。amazonのレビューや適当にぐぐって見つかったブログの感想なんかに目を通すと、思っていたよりもファンが多いシリーズだったのかもしれないけど、それでも今回の三部作の翻訳版を途中で打ち切らずに最後までやり遂げたのは、かなりの覚悟が必要だったんでないかな?なんて思っていたりもする。昨今の翻訳小説事情を考えると、相当の人気シリーズじゃないと採算が獲れないような気もするし。

更に言うと、Kindle版が出てなかったら続きを読もうとは思っていなかった可能性が高い。完結まで翻訳を手がけてくれたこと、Kindle版も出してくれことに、創元社には感謝の思いでいっぱいですよ。ただ、「道化の使命」はすべてKindle化されているのに、前作「ファーシーアの一族」はKindle化されていないのはもったいない気もする。すでに前三部作は古本でしか入手できなさそうなので、今からこのシリーズに手を出そうと思っても敷居が高いのではないかなぁ…。まぁ、今更そこまで需要を掘り起こすことは出来ないって判断なのかもしれないが。

かくいう自分も、前三部作は実家の本棚に眠っているので、改めて読み返そうと思っても出来ないんだよね。こういう時、電子書籍版が出てたら、読みたくなった瞬間にすぐにダウンロードができて、大変ありがたいのだけれども。古い本であればあるほど、電子書籍化されてると有り難みが大きいんだけど、やっぱり需要がないことには商売にならないわけだし、難しいところですね。