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自分の趣味について書き散らかす雑記ブログ。

ゴール前スプリントに関する雑感あれこれ

今年のツール・ド・フランスが始まってはや3日*1。初日のど平坦ステージはカヴェンディッシュの勝利で自身初マイヨジョーヌ着用。2日目の上りスプリントではサガンが制して、こちらも初マイヨジョーヌ。で、昨日の平坦ステージはグライペルとの際どい接戦を制したカヴェンディッシュが今大会2勝目。

贔屓チームであるクイックステップ勢は初日キッテル2位、2日目アラフィリップ2位、昨日キッテル7位。スプリント勝利の量産を目指しているキッテルは、ここまで展開がハマることなく、いまいち実力を出し切れていない感じ。途中まではトレインが組めているんだけど、最終局面(ラスト1キロ)でトレインがばらけて位置取りに失敗している印象。まぁ、スプリンターチームのトレインがいまいち機能していないのはクイックステップだけじゃなくて、トレイン要員を多く抱えているロット・ソウダルやコフィディスも似たり寄ったり。コフィディスは肝心のエース様が直前で怪我を負ってしまって大会不出場なので仕方ないのだけれども。

それにしても、である。平坦ステージにもかかわらず、最終局面でスプリンターチームが綺麗なトレインを組めない現状にはちょっと憂いを覚えている…。これは、スプリンターチームに対する憂いではなくて、レースのあり方の変化に対する憂いだ。おそらく、サイクルロードレースを長く観てる人ほど感じていることではないだろうか。いや、ほんとに長くロードレースを観てる人は、レースなんて時代とともに変わっていくもんだと達観しているのかもしれない。むしろ観戦歴が5~10年くらいの人が、今の変化に戸惑っていそうな気がする。かくいう自分もそんな一人だ。

2日目に勝利を飾ったサガンが、レース後にこんなコメントを残していて、まさに今の自分の心境と重なっていた。
www.cyclowired.jp

集団内は危険な状態になっている。集団先頭で走る選手の多くがバイクの乗り方を知らない。かつては集団内にもリスペクトがあった。レースに出場し始めた2010年頃はこんな状況ではなかった。初めて出場したツールと比べると今のツールは別物になってしまった。少なくとも明日レースを走り終えることができるかどうか、誰にも分からない。

「初めて出場したツールと比べると今のツールは別物になってしまった。」という一文が特に印象的だ。サガンは2010年に彗星のようにロードレース界に登場し、その後順調にキャリアを重ねてきて、今やアルカンシェルを纏いながらツール・デ・フランドルも制し、ツールでも絶好調なところを見せている。自分がロードレースにどっぷりハマっていく過程とサガンの成長っぷりがちょうど重なっていることもあって、サガンのコメントに共感を覚えているのかもしれない。

5年前のツールは、まだHTCコロンビアというチームが存在していて、プロトン最強のスプリンターチームが美しいトレインを披露していた頃だ。カヴェンディッシュのために人数をそろえたトレインが、ゴールに近づくにつれてアシストが発射されていき、ラスト300メートルで本人のスプリントが開始、そして勝負を決める。どうもその印象が強すぎて、未だにあんな美しいトレインをみたいという願望を引きずっているのかもしれない。去年や一昨年、時々ロット・ソウダルが綺麗なトレイン発射を決めて魅せてくれたけれど、今年はどうなるかわからない。

美しいトレインが決まらない要因はいくつかあると思うのだけど、おそらく最大の要因は終盤になってもプロトンが大混雑していることだと思う。数年前まで、平坦ステージの最終局面はスプリンターチームの独壇場であり、総合系チームはプロトンの後ろのほうでまったりとレースを終えることが多かった。それが近年、危険回避のために総合系チームもプロトンの前方に出てくるようになった。このため、以前はせいぜい2列や3列程度だったトレインが、いまや隙間もないくらいところ狭しと集団で固まるようになってしまった。それでもスプリンターチームは、勝つためにはトレインを組む必要があるので、最終局面になる前からトレインの準備を始めて、長いことそのトレインを維持しなければならなくなった。そのせいか、肝心のラスト1キロですでにアシストがいっぱいいっぱいになり、結果ラスト1キロの勝負がチーム戦というよりは個人戦になっているような気がする。

もちろん、それはそれで見どころがある。アシストが弱めのチームでも、ゴール前でうまく立ち回れるスプリンターなら勝負に絡みやすくなったわけで、今までだとフラムルージュを過ぎたあたりで勝負の結果が見えていたような展開でも、最後の最後まで誰が勝つのかわからなくなった。一言で言えばカオスになった。その反面、常に集団がごちゃついているから、落車のリスクが増えているようにも思う。

総合系のチームが終盤になって集団の前方の位置取りをするようになったのは、もちろん落車による危険回避のためなのはわかる。だけど、個人総合を争う有力どころがこぞって位置取りをすることになり、結果として今まで以上に落車のリスクが増えたのではないだろうか。集団の前方にいたところで、最前線の選手が落車してしまうとそれに巻き込まれてしまうわけで、集団全体で落車のリスクが増えてしまうようなら位置取りがどこであれ結局はリスクを抱えたままになるのではないだろうか…。

また、総合系チームによるリスク回避の目的はもう一つある。それは、同じ集団内でゴールする限りは同タイム扱いだけど、その集団に中切れが発生すると別タイム扱いになるというルールに起因している。落車に関してはゴール前3キロ以内であれば救済されるルールもあるから、総合系チームが前方の位置取りにこだわるのはむしろこの中切れに巻き込まれないようにするためかもしれない。であるなら、平坦ステージに関してはこのルールをどうにかすべきなのではないのだろうか。

今まではプロトンに暗黙のルールという名の信頼関係があったから、ルールで縛らなくても総合系チームとスプリンターチームがうまいことすみ分けができていた。けれど、最近の勝負のためにできることは徹底する風潮によって、いろんな歪が生まれている気がする。それが、まわりまわってレースの面白さに結びつかなくなる日がいつかやってくるのでは、という危惧。それを最近強く感じるようになってきたのだけど…杞憂で終わればいいなぁ。

まぁ、なんだかんだ贔屓のチームが順調にまわりはじめるとこの手の心配が軽くなっていったりするので、とりあえずはエティックス・クイックステップのみなさん、頑張ってちょーだいね!ってことなんだけどさw

*1:というか、この記事を書いている最中に4日目も終わったけれど。キッテルおめでとう!