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コニー・ウィリスの長編小説

いやー、「君の名は。」の大ヒットにはびっくりですね。上映3週目で早くも興収62億円突破ですって!

eiga.com

鑑賞時、最初ニヤニヤしながら観てたのが、中盤で物語が大きく動いてからの怒涛の展開に、うわぉ、こういう話だったのか…!と驚いて、そこからはラストまで一気に疾走した感じ。そのストーリーの面白さだけじゃなく、アニメとしての演出だったり背景美術の美しさだったり声優たちの熱演だったり、アニメ作品としてのクオリティの高さにはケチのつけようもなく。

ただ、どこまで一般ウケするかと言われれば、ジブリ作品は別格として、最近だと細田作品にも届かないんじゃないかなぁ…?なんて素人目には思えたわけですね。同世代の映画好きの人と話をしていて、まだ鑑賞してない人にこの作品をオススメできるかというと、人を選ぶところがあるよなぁと思ってちょっと躊躇してしまう。最近の作品だと、個人的には「シン・ゴジラ」のほうが人を選ばずにオススメできる気もするし。だけど、このままいくと「君の名は。」は興収100億円突破もかたそうだし、この快進撃っぷりには本当に驚いてます。映画の興行予測って難しいですね。

さて、これだけ作品がヒットするといろんな人の感想や考察に触れる機会も増えるのだけど。昨夜こんなツイートを目にしておぉ…と思った。


興味を惹かれたのでリンク先のインタビューも一通り読んでみた。作品公開前に掲載されてたのね。
filmers.jp

それにしても、コニー・ウィリスの「航路」とな。言われるまで全然思い浮かばなかったけど、言われてみると「夢の中(正確には臨死体験中)に経験した重要な何かが、現実で思い出せそうで思い出せない」「じれったいくらいすれ違いのシチュエーションが続く」とか、「君の名は。」とも共通しそうなテーマが描かれている話だ。なるほどなぁ。

この「航路」という小説、それはもう傑作なんだけれど、気軽に人にはオススメしづらい小説でもある。コニー・ウィリスという作家の長編小説で共通していることなんだけど、序盤から中盤にかけて起伏の少ない描写や展開がこれでもかってくらい続くんだよね。ただ、起伏が少ないから退屈かっていうと(慣れていると)決してそういうわけでもなくて、登場キャラ同士の掛け合いのテンポの良さやユーモアが心地よかったり、さりげないところで散りばめられている伏線だったり、歴史に対する薀蓄だったり、そういう丹念な前準備があった上で一気に盛り上がる最終盤のカタルシスとか、一度味わってしまうとやみつきになるという。だけど、そこまで我慢できない人からすると、この話どこがそんなに面白いんだ?という気持ちのまま挫けてしまうのもわからなくもない。

自分の場合、初めて読んだコニー・ウィリス小説は「ブラックアウト」で、続編の「オールクリア」まで読んだら絶対に泣ける!という書評の通り、ラストで大泣きしてしまったわけだけど、正直言うと一度「ブラックアウト」の途中で挫けそうになった。「航路」も、臨死体験で人は何を見ているのか?というテーマにイマイチ興味が持てず、やっぱり序盤で読書のペースがなかなか上がらなかったという経験を経ている。だけど、この作家さんへの信頼感というか、ラストで絶対に盛り上がるということがわかっているので、今では個人的に好きな作家さんなのだけど、そこへ至る読書のボリュームを考えると、やっぱり気軽に人にオススメするのは難しい気もする。

それでも!折角の機会なので、コニー・ウィリスの長編小説についてかるーく紹介してみたい。

航路

航路(上)

航路(上)

臨死体験で、人は自分の生涯を走馬灯のように振り返るなんて言われる。ヒロインである心理学者ジョアンナは、臨死体験を科学的に証明するため、病院の患者にヒアリングを行うが調査は難航する。そんな中、臨死体験を擬似的に作り出す実験をすすめるリチャード医師と出会う。患者へのヒアリング調査に限界を感じたジョアンナは、自分が擬似臨死状態の被験者になることで、自分の研究に光明を見出そうとする。そしてその研究の先に待っていたのは…。

途中までは、コニー・ウィリス小説でよくみられる、様々な立場のキャラとの会話劇やすれ違い劇が淡々と積み重なっていくのだけど、終盤に入るところでそれはそれは呆然とするような出来事で急展開をみせる。臨死体験とは何か?というテーマを通じて、人の「死」というものに思いを馳せることにもなる、SFというよりは人間ドラマ寄りのお話。一見エセ科学物では?という不安もよぎるあらすじだけど、そこはコニー・ウィリス、料理の仕方がとても上手いです。

オックスフォード史学部生の三部作

21世紀中盤になって、ついに人類は過去への時間遡行が可能になった!ただし、発明された時間遡行装置では、歴史的特異点への移動は出来ない、過去から現在に歴史を改変するような物を持ち帰ることは出来ないなど制約も多く、もっぱら歴史の現地調査にのみ活かされる技術となった。オックスフォード大学史学部では、学生が各自のテーマの研究目的で、歴史上のある時点に遡行しその時代の観察を行うのだが、そこで事件に巻き込まれ…。

という共通した設定のもと、以下の様な三部作になっている。

ドゥームズデイ・ブック

ドゥームズデイ・ブック(上)

ドゥームズデイ・ブック(上)

三部作一作目。史学生キブリンが14世紀のイギリスの研究のため過去に遡行することに。しかし、過去への遡行と同時に病に倒れてしまう。意識を取り戻したキブリンは、そこが自分が望んでいた時代とずれているのではと危惧するのだが、それを確かめることが出来ない。時代は致死性の強い伝染病が蔓延った中世。果たして彼女は無事に元の時代に戻れるのだろうか…?というあらすじ。ヒロインが今どういう境遇にいるのかはっきりわからない不安感と、それと平行して描かれる現代パートで発生する謎のパンデミック。それがどういう因果関係にあるのか、読者はあれこれ思いを巡らせることになるが、果たしてその結末は…。

犬は勘定に入れません

三部作二作目。第二次大戦で焼失したコヴェントリー大聖堂を復元する一環として、「主教の鳥株」発掘を命じられた史学生ネッド。その調査中に出会った猫、プリンセス・アージェマンドがどこかに消えてしまった!猫がいなくなったことでタイムパラドックスが起きるのでは?と危惧したネッドはヴィクトリア朝と20世紀と21世紀を行き来するはめに…。その中で出会う、くせの強い魅力的なキャラ達とブルドック犬シリル。そして時間移動ものの醍醐味であるタイムパラドックスへのドキドキ感。前作とはうって変わってコメディ色が強くて、ページをめくるのが最後まで楽しい1冊。

ブラックアウト&オールクリア*1

ブラックアウト

ブラックアウト

オール・クリア1

オール・クリア1

三部作三作目。第二次大戦中のダンケルク撤退戦を調査するマイク、ロンドン大空襲時の市民の生活をそれぞれ調査するポリーとアイリーン。同時代で別行動をとっていた三人の史学生だが、いつの間にかなぜか現代に戻ることができなくなっていることに気づく。果たして一体何が起きているのか。誰かの行動が歴史を改変してしまったのだろうか?物語の要所要所でカットインされる謎の人物はいったい誰なのか?果たして三人は無事現代に帰還できるのか。そして最後になされるとある選択。すべてが繋がった時に待っているのは…。ここまで描かれてきた時間遡行というSF設定を活かしきった集大成とも言える結末に、きっと読者の感情はどこかにむかって決壊することでしょう。

とまぁこんな感じで、時間移動 or ループものSF小説としてのプロットの面白さ、そのSF設定内で発生するドタバタ劇、一見無秩序のようだけど最後に綺麗に収束するカタルシスとか、その魅力をぜひとも人に共有してみたくなるんだよな…。

上記のとおり、コニー・ウィリスの小説は「犬は勘定に入れません」に代表されるコメディと、「ドゥームズデイ・ブック」に代表される悲劇話とで読了感がまったく異なるから、ファンでも好き嫌いの差が出てくる部分はあるかもしれない。「ドゥームズデイ・ブック」、途中までは言うほど悲劇じゃないじゃん!なんて油断しかけていたところであれだったからなぁ…。

もし、好きなコニー・ウィリス作品は?と訊かれたら「犬は勘定に入れません」、傑作は?と訊かれたら「航路」、完成度の高い作品は?と訊かれたら「オールクリア」ってチョイスになるかなぁ、自分の場合。読む順番は、史学生三部作は登場キャラが一部共通することを考えると、発表順*2に読んだほうが良いかもしれない。ただ、個人的に救いのない話は好みじゃないからか、最初に「ドゥームズデイ・ブック」じゃなくて「犬は勘定に入れません」から入って、コニー・ウィリス小説の魅力に触れるほうが離脱率は低くなるかも、という気もする。まぁ、どれから読んでも面白さが損なわれるわけでもないので、あらすじ読んで少しでも興味を持った話から手を出すのが一番良いでしょう。

と、ここまで長々と書いてきたけど、結局何が言いたいかというと、少しでも惹かれる要素があったならば試しに1冊手にとってみて欲しいという点ですね。話がずいぶんそれたけど、そもそもこの文章を書き始めたきっかけは、新海監督も「航路」の影響を受けていたことを知ったことだしね!

*1:2作品で1つの話です

*2:ドゥームズデイ・ブック」→「犬は勘定に入れません」→「ブラックアウト」&「オールクリア」