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エスケープ 2014年全日本選手権ロードレース

という本を読んでみたところ、これがめちゃくちゃ面白かった。本のタイトルのまんま、2014年の全日本選手権を題材に、主要選手たちがどういう意気込みでこのレースに挑み、レース中どういうチーム戦略のもと、何を考えながらどう走ったのか。そしてその結果どうなったのかを、選手への取材を元に書き下ろしたノンフィクション本。

エスケープ 2014年全日本選手権ロードレース

エスケープ 2014年全日本選手権ロードレース

この本のことを知るきっかけになったのは、たまたまはてブ経由で目にしたこのエントリー。
with585.ldblog.jp

主に、国内チームで優勝候補と目されていたブリジストンアンカーのエース清水選手、そのチームメイトで序盤から逃げに乗った井上選手、逃げに同調した那須ブラーゼンの佐野選手やNIPPOの山本選手などの目線から、レース中フィジカルやメンタルはどんな調子だったのか?アタックがかかった時に、そのアタックに乗るのか潰すのか判断であったり、集団のペースの上げ下げはどのようになっていたのか?などを、主要局面ごとに丁寧に描いていく。

特にキーポイントになっているのが、タイトルにもなっているエスケープという状況。ロードレースではかならず形成される逃げ集団が、このレースではどのようにつくられて、それが勝負にどう影響していったのか。逃げ屋として経験豊富な井上選手や山本選手が、この逃げにのった他のメンバーをどう見ていて、メイン集団のために自分はどう走るべきか、まさにレース中に刻々と変化していくその心理状況が克明に描かれているのだけど、これが実に興味深い内容になっている。

奇しくも、その逃げメンバーのうち、井上選手は今年Jスポーツのロードレース中継で、わかりやすい解説で何度もお世話になっていたこと、山本選手はジロでの活躍とブログの面白さで好感度急上昇していたこともあって、なんだか身近に感じられる選手だったので、より本書で語られる内容が面白く感じられたというのもあるかもしれない。終盤、山本選手のちょっと苦しそうな顔をしている演技とか、それを見破っていた井上選手とかねw

ロードレースって単なるフィジカル勝負ではなくて、チーム同士や個人同士の駆け引きやその時のメンタルが勝負に大きく影響を与えるスポーツなので、レースの重要な局面で誰がどういう考えのもとレースを動かしたかって話は本当に面白いよなぁと、本書を読みながら改めて実感したのだった。スポーツ(ロードレース)物としても、ノンフィクション物としても、かなりオススメの1冊。

以下、少し話はかわるけれど。

普段、テレビでロードレースを観戦する場合、実況と解説がセットになっていて、局面ごとにこの状況がなぜ生まれたのかを、解説者が過去の経験を踏まえたりしながら説明してくれるので、こちらもなんとなく状況を理解しながらレースを楽しむことができている。だけども、はたしてその解説が正しいかどうかはわからないし、ましてや解説がない場合は、レースが現在どういう状況になっているかの判断すら困難になる。

そう、ロードレースの観戦って、非常にスキルが求められるのである。それを痛感したのは、夏に開催されたリオオリンピックのエリート男子のロードレース。スタートからゴールまでの映像がネット配信されていたのでスタート直後から観戦していたのだけど、なんと実況解説がないではないか。私もロードレース観戦が趣味の一つなので、Jスポーツで実況されるような海外の主要レースは可能な限り観るようにしているし、それなりにレースの観戦には慣れているつもりだけど、やっぱり実況が皆無というのは敷居が高すぎる。逃げに乗ったのが誰で、アタックをかけたのが誰で、メカトラが誰に起きて、それがレースへどのくらい影響しそうかなどなど、自力で瞬時に判断することが全然できないという…。

それでも、映像自体は綺麗だし、同じ映像を観戦している日本のファンも多かったので、Twitter2chの実況スレのちからを借りて、どうにかこうにかついていくことが出来た。いや、出来たという実感もあまりないんだけどw

国内レースにいたっては観戦すること自体滅多にない。そもそもテレビという媒体を使った中継がないので観戦しようがない。それでも最近は、WEB中継の試みが増えてきたので、例えば今年の全日本選手権は途中からではあるけど観ていたりする。ただ、やっぱり予算がかけられないからか、中継としての体を成していないんだよね、残念ながら。コース上に設置されている数台の定点カメラと、映像が映ったり映らなかったりするカメラバイク。実況もほとんどないので、映像をみているだけでは、レースの状況がさっぱりわからない。これじゃぁレースの面白さもへったくれもないわけですよ。

ロードレースの面白さを満喫するには、レースの醍醐味がわかりやすく伝わることが大前提だと思うのだけど、そのためにはレースの実況が欠かせないし、実況には中継が必要だ。で、中継のための資材だったりノウハウが必要で、それには当然お金がかかるけれども、その予算の獲得にはスポンサーだったり放映権料が必要だ。しかしそのお金を生み出せるほどのファンが国内に根付いていないわけで。ファンを獲得するには、ロードレースの面白さを伝える必要があるわけだけど…、あれ?振り出しに戻ってないか?いったいどうすればこの詰んだように思われる状況は改善されるんだろうか。

なんて、ついつい後ろ向きなことを考えてしまったりするんだけど、それとは別にロードレースにまつわる優良なコンテンツって実はいろいろあるよね、とも思う。例えば、弱虫ペダルに代表される漫画であったり、本書のような読み物であったり、サイクルフォトグラファーによる臨場感あふれる写真だったり。WEB媒体で読むことができるレースレポートや、最近は現役選手や関係者による読み物にも魅力的なものが多い。

www.bscycle.co.jp
jaa01114.cocolog-nifty.com
cyclist.sanspo.com

とかね。

ただ、ロードレース界が潤うために一ファンとしてお金を落としたくても、その手段がほとんどないのよね…。困ったもんです。