いやー、「君の名は。」の大ヒットにはびっくりですね。上映3週目で早くも興収62億円突破ですって!
鑑賞時、最初ニヤニヤしながら観てたのが、中盤で物語が大きく動いてからの怒涛の展開に、うわぉ、こういう話だったのか…!と驚いて、そこからはラストまで一気に疾走した感じ。そのストーリーの面白さだけじゃなく、アニメとしての演出だったり背景美術の美しさだったり声優たちの熱演だったり、アニメ作品としてのクオリティの高さにはケチのつけようもなく。
ただ、どこまで一般ウケするかと言われれば、ジブリ作品は別格として、最近だと細田作品にも届かないんじゃないかなぁ…?なんて素人目には思えたわけですね。同世代の映画好きの人と話をしていて、まだ鑑賞してない人にこの作品をオススメできるかというと、人を選ぶところがあるよなぁと思ってちょっと躊躇してしまう。最近の作品だと、個人的には「シン・ゴジラ」のほうが人を選ばずにオススメできる気もするし。だけど、このままいくと「君の名は。」は興収100億円突破もかたそうだし、この快進撃っぷりには本当に驚いてます。映画の興行予測って難しいですね。
さて、これだけ作品がヒットするといろんな人の感想や考察に触れる機会も増えるのだけど。昨夜こんなツイートを目にしておぉ…と思った。
FILMERS.の新海誠監督インタビューより。https://t.co/eVWSYEF8AK
— 大森望 (@nzm) 2016年9月13日
「コニー・ウィリスの『航路』は僕が文庫版の帯を書いているんですけど、抜群に面白いSFです。昏睡状態にある人が夢の中で色んな事を見てその意味を探る、みたいな話なんですよね」(続)
(続) ――2作目の『雲のむこう、約束の場所』にも繋がりを感じますね。
— 大森望 (@nzm) 2016年9月13日
新海誠「そうですね。今回の『君の名は。』の、夢の中で何か大事なことを知るということとも繋がると思いますし、僕はこの『航路』を読んでいなければ、『君の名は。』も少し形は変わっていたと思います」
興味を惹かれたのでリンク先のインタビューも一通り読んでみた。作品公開前に掲載されてたのね。
filmers.jp
それにしても、コニー・ウィリスの「航路」とな。言われるまで全然思い浮かばなかったけど、言われてみると「夢の中(正確には臨死体験中)に経験した重要な何かが、現実で思い出せそうで思い出せない」「じれったいくらいすれ違いのシチュエーションが続く」とか、「君の名は。」とも共通しそうなテーマが描かれている話だ。なるほどなぁ。
この「航路」という小説、それはもう傑作なんだけれど、気軽に人にはオススメしづらい小説でもある。コニー・ウィリスという作家の長編小説で共通していることなんだけど、序盤から中盤にかけて起伏の少ない描写や展開がこれでもかってくらい続くんだよね。ただ、起伏が少ないから退屈かっていうと(慣れていると)決してそういうわけでもなくて、登場キャラ同士の掛け合いのテンポの良さやユーモアが心地よかったり、さりげないところで散りばめられている伏線だったり、歴史に対する薀蓄だったり、そういう丹念な前準備があった上で一気に盛り上がる最終盤のカタルシスとか、一度味わってしまうとやみつきになるという。だけど、そこまで我慢できない人からすると、この話どこがそんなに面白いんだ?という気持ちのまま挫けてしまうのもわからなくもない。
自分の場合、初めて読んだコニー・ウィリス小説は「ブラックアウト」で、続編の「オールクリア」まで読んだら絶対に泣ける!という書評の通り、ラストで大泣きしてしまったわけだけど、正直言うと一度「ブラックアウト」の途中で挫けそうになった。「航路」も、臨死体験で人は何を見ているのか?というテーマにイマイチ興味が持てず、やっぱり序盤で読書のペースがなかなか上がらなかったという経験を経ている。だけど、この作家さんへの信頼感というか、ラストで絶対に盛り上がるということがわかっているので、今では個人的に好きな作家さんなのだけど、そこへ至る読書のボリュームを考えると、やっぱり気軽に人にオススメするのは難しい気もする。
それでも!折角の機会なので、コニー・ウィリスの長編小説についてかるーく紹介してみたい。
航路
- 作者: コニー・ウィリス
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/09/25
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (3件) を見る
臨死体験で、人は自分の生涯を走馬灯のように振り返るなんて言われる。ヒロインである心理学者ジョアンナは、臨死体験を科学的に証明するため、病院の患者にヒアリングを行うが調査は難航する。そんな中、臨死体験を擬似的に作り出す実験をすすめるリチャード医師と出会う。患者へのヒアリング調査に限界を感じたジョアンナは、自分が擬似臨死状態の被験者になることで、自分の研究に光明を見出そうとする。そしてその研究の先に待っていたのは…。
途中までは、コニー・ウィリス小説でよくみられる、様々な立場のキャラとの会話劇やすれ違い劇が淡々と積み重なっていくのだけど、終盤に入るところでそれはそれは呆然とするような出来事で急展開をみせる。臨死体験とは何か?というテーマを通じて、人の「死」というものに思いを馳せることにもなる、SFというよりは人間ドラマ寄りのお話。一見エセ科学物では?という不安もよぎるあらすじだけど、そこはコニー・ウィリス、料理の仕方がとても上手いです。
オックスフォード史学部生の三部作
21世紀中盤になって、ついに人類は過去への時間遡行が可能になった!ただし、発明された時間遡行装置では、歴史的分岐点への移動は出来ない、過去から現在に歴史を改変するような物を持ち帰ることは出来ないなど制約も多く、もっぱら歴史の現地調査にのみ活かされる技術となった。オックスフォード大学史学部では、学生が各自のテーマの研究目的で、歴史上のある時点に遡行しその時代の観察を行うのだが、そこで事件に巻き込まれ…。
という共通した設定のもと、以下の様な三部作になっている。
ドゥームズデイ・ブック
- 作者: コニーウィリス
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/05/22
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
犬は勘定に入れません
犬は勘定に入れません(上)あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎
- 作者: コニー・ウィリス
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/02/21
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
ブラックアウト&オールクリア*1
- 作者: コニーウィリス,大森望
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/06/14
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
- 作者: コニーウィリス,大森望
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/06/14
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (3件) を見る
とまぁこんな感じで、時間移動 or ループものSF小説としてのプロットの面白さ、そのSF設定内で発生するドタバタ劇、一見無秩序のようだけど最後に綺麗に収束するカタルシスとか、その魅力をぜひとも人に共有してみたくなるんだよな…。
上記のとおり、コニー・ウィリスの小説は「犬は勘定に入れません」に代表されるコメディと、「ドゥームズデイ・ブック」に代表される悲劇話とで読了感がまったく異なるから、ファンでも好き嫌いの差が出てくる部分はあるかもしれない。「ドゥームズデイ・ブック」、途中までは言うほど悲劇じゃないじゃん!なんて油断しかけていたところであれだったからなぁ…。
もし、好きなコニー・ウィリス作品は?と訊かれたら「犬は勘定に入れません」、傑作は?と訊かれたら「航路」、完成度の高い作品は?と訊かれたら「オールクリア」ってチョイスになるかなぁ、自分の場合。読む順番は、史学生三部作は登場キャラが一部共通することを考えると、発表順*2に読んだほうが良いかもしれない。ただ、個人的に救いのない話は好みじゃないからか、最初に「ドゥームズデイ・ブック」じゃなくて「犬は勘定に入れません」から入って、コニー・ウィリス小説の魅力に触れるほうが離脱率は低くなるかも、という気もする。まぁ、どれから読んでも面白さが損なわれるわけでもないので、あらすじ読んで少しでも興味を持った話から手を出すのが一番良いでしょう。
と、ここまで長々と書いてきたけど、結局何が言いたいかというと、少しでも惹かれる要素があったならば試しに1冊手にとってみて欲しいという点ですね。話がずいぶんそれたけど、そもそもこの文章を書き始めたきっかけは、新海監督も「航路」の影響を受けていたことを知ったことだしね!
*1:2作品で1つの話です
*2:「ドゥームズデイ・ブック」→「犬は勘定に入れません」→「ブラックアウト」&「オールクリア」