推し漫画がメジャーになるとさみしくなる乙女たちのクラブ
数日前から、杉井光が小説家になろうで連載をはじめた「推し漫画がメジャーになるとさみしくなる乙女たちのクラブ」が面白くて、更新されるのが楽しみになっている。今のところ毎日0時に1話追加されるので、寝る前のちょっとしたお楽しみである。
どんな話かといえばタイトルの通りで、自分の好きな(まだマニアックな)漫画がメジャーになるとさみしい気持ちになるというオタク特有の心境をネタに、世の中にあまり知られてない名作(迷作も?)を肴に漫画談義が繰り広げられるというものだ。で、そこはさすが杉井光というか、いつのも軽快な文体でノリとツッコミが繰り広げられるのである。主人公がツッコミ役で、3人のヒロインがボケ役。まぁなんだ、杉井光小説では見慣れた光景ですな。キリカとか神様のメモ帳のノリで、ネタが漫画になっただけとも言える。
ただね、取り上げられる漫画のチョイスと、なぜその漫画なのかのやり取りが本当に面白いのです。今日現在すでに6回更新されていて、恥ずかしながら読んだことがあった漫画は白暮のクロニクルだけで、残りの5作品はタイトルすら知らなかったのだけど、じゃぁその漫画のことを知らないとついていけない内容かと言うと全然そんなことはなくて、むしろ興味を掻き立てられるわけですよ。これが本当に上手い。
例えば第1回。堕天作戦を知らない主人公とヒロインのやりとり。
「山本章一『堕天作戦』。今いちばん熱い連載のひとつよ」
……し、知らねえ……。なんだこれ? なにこの『X JAPANのTOSHIがもし自己啓発セミナーから抜け出せず骨までしゃぶられて死んだ場合』みたいなカバー絵? 面白いの? ぜんぜん読む気をそそられないけど?
「これはファンタジー戦争ものという分類になるのかしらね。世界中が人類とか魔族とか何個かの勢力に分かれてずうっと戦っている時代が舞台で、なにをやっても死なない不死者が主人公で、竜と呼ばれているけれど実質的には巨大変身ロボットの生物兵器が出てきたり、肉体改造された超能力者が戦争の道具として権力に酷使されていたり、すべての裏に宇宙とか神とか超越知性みたいな壮大なSF設定があったり――みたいな説明をするとたぶんあなたは色んな類似作品を思い浮かべたでしょうけどそういう連想はだいたい全部外れてるわ」
「外れてんのっ?」即座に五つ六つ思い当たったけど?
このやり取りに至る前段からニヤニヤしてしまったのは、「講談社ご挨拶系」というワードがでてきたあたりから。それなりに漫画を読んできた自負のあった主人公に対して、ヒロインからは漫画読みとしては三流*1と言われるくだりで出てくるのだけど、それは自分も前々から思っていた!ってネタがするりと文章として目の前にあらわれるのが心地よいんだよね。で、読みすすめるにつれて妙に主人公に共感してしまうのは、漫画読みの程度が自分と似ているからだと気づく。取り上げられる漫画に対して、その漫画家の代表作は読んだことがあっても、それ以外のマイナーな漫画は読んだことがない。まさに自分もそれだ。だから、あの漫画家はこんな漫画も書いているのか…!という発見があるのがとても良い。
さっき更新されたばかりの第6回では、「漫画家・ザ・ギャザリング」なるゲームが登場するんだけど、これがもう軽妙すぎてゲラゲラ笑ってしまった。このやり取りで出てくる漫画家は大御所ばかりなので、漫画好きであればだれでも楽しめると思うし、そこから強引に三部けいを絶賛する流れに変わっていくのも面白かった。
このテンションでいつまで更新が続くのかはわからないのだけど…、明日はどんな漫画が料理されるのかわくわくしながら、次の更新を待つのであった。
2020年1月15日追記
↑という文章を書いた翌日の更新にて、どうやらおしまいらしい。
一週間がんばった! 次は真面目な小説も投稿しようと思います。漫画読みもネタ思いついたらまた書きます
— 杉井光 (@hikarus225) 2020年1月15日
楽しみにしていた分残念な気持ちなのだけど、この濃さの漫画紹介を長く続けるのも難しいだろうしなぁ…とは思っていたしな。ネタが思いついたら続きを書くかも、とのことなので、また読める日を心待ちにしたい。
*1:ちなみに彼女いわく、「漫画読みには一流から八流まであるの」